思いが重なるその前に
「今日もいい天気だね！」
あの子が空を見上げている時に、自分も空を見上げてみた。
ミスラ族特有のその行為が彼女と付き合っているうちに自分にも移ってしまって、そう
やって空を見上げる事が多くなった。
彼女は子供で、とても子供で、無邪気に笑うその顔とか、すぐに怒る所とか、俺は好き
だ。でもそれらはきっと、大人になってしまったら無くなってしまうのだろう。
朝は俺が先に起きてご飯を作ってあの子をテーブルで迎える。
昼はこうやって2人でのんびりと過ごし、いろんな事で入ってしまっている力を抜く。
夜は2人で一緒にベッドに入ってお互いの体温を布越しに感じながら眠る。
体の関係はなくて、それはおかしいとよく言われる。それは俺も思うけれど、その一方
で彼女が精神的に子供過ぎて、抱いたらすぐに壊れてしまうと簡単に予想が出来てしまう
その小さな体を抱くのが怖くて仕方が無い。
俺に訳もわからず貫かれて、辛い思いをさせられたと思われて、それを理由にあの子に
逃げていかれてしまうのが俺にとっては１番辛い。
「私はここが1番落ち着くね。だから、ここに居たいなぁ。やっぱり、私にはここが１番
だぁ」
今日の弁当であるパンを頬張りながら蜂蜜色の短い髪を風になびかせ、あの子が無邪気
に笑う。
「ああ、そうだなぁ。今１番気持ちいい季節だからね」
「ち、が、う！違うの！私が言いたいのは、ここ！」
そう言ってあの子は立ち上がり、自分が立っている場所をピョンピョンと跳ねた。
あの子が思い切り俺にぶつかり、そして彼女なりの力で力いっぱい俺の腕をぎゅっと抱
きしめてきた。
俺は驚き、小さいあの子を見る。すると、ちょっとふてくされた顔で見上げていた。
「私が言いたい事、わかる？」
「わかるよ。…光栄だね」
どうやら当たったらしく、あの子に砂糖菓子の笑顔で笑って見上げられ、俺は苦笑した。
…ああ、本当に子供なんだなぁ。やっぱり大人の女にはこんな笑顔はできないよ。
一緒に眠っても本格的に体に触れ合っていないからこうやって笑うんだよなぁ。
そりゃ、俺もきちんとした成人男性だから、抱きたいというその思いに支配された日が
何度もあった。その度にベッドから抜け出して自分１人で処理をしてきたけれど、その砂
糖菓子のように無邪気な笑顔を見ると、まあいいかと思えてしまう。
早く大人になって欲しいと思う反面、男を知って大人の女になってしまうとこの砂糖菓
子の笑顔が無くなるのかなぁと思うと、もうちょっとこのままでもいいかもしれないと思
うのだ。
その考えが甘いと言われれば、それまでだけどね。
俺達は弁当を食べ終わり、心地いい風にのんびりと吹かれた後、家に帰る。
今日も何事も無かったかのように沈んでいく太陽が空を燃やす時間に、2人でそれを眺
めながら夕飯を食べるのだ。
「手、繋いで帰ろうか」
俺の提案に嬉しそうにあの子はうなずき、俺に向かって勢いよくパッと手を伸ばした。
「はい、繋いで！」
本当に何から何まで子供で。
そんな彼女が大人になった姿を見るのは、もうちょっと先なんだろうな。
相手と体を重ねたいという思いが目の前の彼女と重なる日まで、俺はやっぱり待とうと
思う。
「はいはい。じゃあ今晩は何を食べようか。今日は好きなものを作ってあげるよ」
「お魚食べたい！お魚！でね、蜂蜜プリンが食べたいなー！」
鼻歌交じりでご機嫌よろしく手を取られる事を待つあの子を見て、俺は1つ息をつく。
「蜂蜜プリンは駄目。太るでしょ。甘いものは他のものを考えてあげるから、魚ものを考
えなさいよ」
「ケチ！」
俺はゆっくりと差し出された小さな手を包み込んで、自分達の“家”に帰るために歩き
始める。
「それは“3時のおやつ”だよ。だから、明日か明後日の3時のおやつね」
全く食べられないという訳ではないとわかったあの子は、嬉しそうな顔をしながら空いて
いる左手で俺があげたリラコサージュをいじる。
「明日、明日、明日が楽しみ、だ！」
音階をつけて歌い始めるあの子は、よっぽどそれが食べたいのだろう。
（こりゃ、本気で明日作らなきゃすねるな…）
こうやって俺は、もうしばらくの間あの子が砂糖菓子でいられる時間を、一緒に過ごした。
言葉にならない想いだけ、強く手を握ろう。
この2人は裏カザム様のロイド君とシアちゃんがモデルです。
いやー、いいわー、あの2人。
F08b様に堂々と胸を張れる作品になれたようなので、公表。
7/2 ちょっと文章修正。
シアちゃんの表情が多くなった、かな？