あたしにとっての楽園 / 満月の先の楽園






 あたしは手を伸ばす。

 息を熱く漏らせて、その大きな体の上に乗る。

 あたしの手を取り、ダランが笑う。

「俺が動くと絶対壊れるからさぁ。まあ、我慢するから」

 そう言いながらも、ダランは物凄く我慢をする顔で歯を食いしばっているよ。でもそう

やって我慢する顔、好きかも。

 …すごい、怖いんだぁ。

 ダランはあたしを壊すからって何度も言っているけどさ、あたしはあたしで、体を重ね

る事すら大丈夫かなぁって思うほどの体格の差を持つあたしを嫌がらないかなぁって、思

うんだよ。

 それってやっぱり、あたしの無いものねだりの1つだよねぇ。

 あたし、女として全然自信なんて無いしさ、やっぱり今になってもさ、こうやってダラ

ンの立派な体の上に乗っていられる事すらすごく不思議なんだよ。

 でもねぇ、ちょっとでもこうやって触ってくれる時間があったら、不思議と怖いものが

1つずつ減っていくんだ。

 それはダランも同じなのかな。

 そうだとしたら嬉しいと思うし、あたしももっと触っていたいって欲張っちゃえるよ。

 

 あたしを縛る、ここの女達は入れ替わり立ち代りだけれど、やる事は変わりなくってね。

 ちょっとでも冒険をしたいという素振りを見せたら、怒るんだ。

 何度も内緒でね、1人で、出ようとしたんだ。

 そしたらサルタバルタまで追いかけてくるんだよね、参ったね。

 初めて追いかけられた日に、事もあろうか獣人に見つかっちゃって、1人が大怪我でね。

 そうやって大怪我になる時にあたしが情を掛けて逃げ切らずに助けちゃったものだから、

あの子達も変な知恵がついちゃったみたい。

 次からはわかっていて襲われるようになっちゃった。

 そうやってあたしが出る度に、サルタバルタで追いかけられて、捕まえられて、その場

で全員の手で装備をはがされて、ちょっと離れた所にある川に投げられちゃうんだ。

 そうやってやった女の子達は、何か様子がおかしすぎると追いかけてきた大人のミスラ

達にこっぴどく怒られて、その場で顔が腫れるほど何度も叩かれて、お尻も叩かれていた

っけ。お仕置きの為にそれ用の檻の中にしばらく入れられちゃった。

 後で思えばさ、あの檻にあの子達が入っている間に飛び出せばよかったんだ。

 何度もチャンスがあったのに、ね。大人達も今思えば抜け出せるように隙を作ってくれ

ていたんだ。

 でもそれに気が付かないくらい、そうやって獣人よりもしつこく追いかけてくるあの子

達が怖くて、あたし自身も家を出ることが出来なくてね。檻の中からあの子達が出てきた

後もしばらく家から出られなかったんだ。

 それでね、やっぱり本気でここから出たくて、ダランじゃない人に…まあ、女の人だけ

どさ、連れて出てもらおうとしたんだけどね。あたしが準備をしている間に凄く悪評を立

てられてさ。女性としては致命傷な悪評を立てられたんだ。

 ウィンダスに居る事が辛いからと言われて、あたし1人を置いて、ある日突然逃げるよ

うに出ていっちゃった。その後の話は聞かない。というか、きっと聞けないんだ。冒険者

を辞めたいと思わせるほどの悪評を立てられたんじゃないかってあたし自身が思うから。

 そんな事が何回か続いてさ、あたしはどんどん皆から出遅れちゃってさ。

 だから、もう、ぼんやりと毎日を過ごしていたんだ。

 何年もそれを繰り返して、あたしよりも4年も5年も遅くに生まれた子も見送ったっけ。

 他人の体温をいつもどこかに感じながら、ぼんやりとウィンダス連邦の中のあたしの住

処の近くの空を見上げる。そんな、ただ時間だけを食いつぶすだけの、生活。

 外に出たいという気もあったけれど、それはもうちょっとしか残ってなくてね。

 女の冒険者を呼んだり、冒険から帰ってきたお姉さんの冒険の話を他の子達に混じって

聞くけれど、やっぱりそれ以上に、少しずつ人数が増える、追いかけてくるあの子達が怖

くて仕方なかったんだ。

 だってサルタバルタで釣りをするというだけで置いていかないでと泣くんだよ。

 あたしが出る前にあの子達に潰されてしまった冒険者達に悪い事をしたという気しかな

くて、だからあたしはずっとここにいた方がいいのかなって思っていたんだよ。

 だから、ね。

 こんなあたしをここから1度でもきちんとこの土地から連れ出してくれたダランが、大

好きなんだ。大人のミスラ達があの子達を引っ張るために追いつくまで、道行く獣人をな

ぎ倒しながら走っていったっけ。

 またここに帰ってきたけれど、あの子達がいない場所にあたしの居場所を作ってくれて

いる、そんなダランが大好きだよ。

 こんなあたしの、成長期にきちんとした運動が出来ずに大きくなりきれなかった、出来

損ないとも思えるような小さい体でも、ダランを自分の腕の中に仕舞い込めるとわかると

…あの子達のように、自分の体を使ってまで引き止めたいと思うんだ。

 

「怖いか、ターナ」

「うん、怖い」

「俺も怖いけどな。本当に苦しすぎて、次からは入れたくないって言われそうでさ」

 あたしは少し笑って首を横に振り、息を呑んで腰を自ら浮かす。

「そんな事、ないよ。夕べ話を聞いてくれたお姉さんに、勇気をもらってきたもの」

 ハハ、とダランが緊張気味に笑った。勇気付けるようにあたしの頬を撫でてくれる。

「お前に勇気を与えたお姉さんは誰だよ」

「内緒。…でもね、夕べ怖がるか何らかの理由で、ダランの宿から飛び出してくるんじゃ

ないかと思って、宿の近くであの人のお友達と一緒に待っていてくれたの」

 ダランは小さく笑いながらあたしの頬を撫でてくれていた手をまたあたしの体に滑らす。

「お見通しか」

「…うん。初めての相手がミスラ族やタルタル族ならまだしも、エルヴァーン族でも大き

な体のあいつじゃ普通は怖くて泣いて出てくるわ、ってさ。やっぱりねって笑っていたよ」

 普通に、大きいんだ。何もかもが、大きいんだ。

 だから、あたしに入れるその鍵も、たぶんミスラ族の男が持つそれよりももっとうんと

大きいに違いない。

 

 繋がりたい、と、先に声にしたのは、あたし。

 そんな檻から連れ出してくれたダランとちょっとでも繋がっていたくて、ここにいても

怖くないんだって思えるように自信が欲しくてねだったのは、あたし。

 だからねぇ、苦しくっても平気なんだ。

 俺も繋がりたいんだ、と笑ってくれたのはダラン。

 いつか来る、お互いの1人で居なければいけない時間に“自分の事を忘れちゃったかな”

と卑屈に思わない為に、お互いの体をお互いの体に刷り込ませたい。

 その思いは一緒だよ。だからねぇ、痛くても多分大丈夫。

『ターナ、エルヴァーンの体はその全てがあたし達にとってはとても大きいからね。初め

てなら特に、受けるこっちは多分とても苦しいよ。きちんと男を受け入れる体になった後

でも向こうが本気を出して抱いたら、きっと息が詰まるほど苦しいと思う。でも、あたし

はエルヴァーン族の男が好きだよ。ヒューム族の男もいいね』

 あたしは2人のミスラがあたしに向かって安心するように優しく紡ぎだす、その言葉を

思い出す。思い出せたら、ちょっと気持ちが軽くなった。

『力強い腕に逞しい胸、とても鋭い武器を難無く使いこなす大きな手。今のあたしはそれ

を持たないミスラ族の男よりも、あたし以上に力強い、あの男達に惹かれてしまうからね。

ターナもきっとそうなるだろうね』

『そうかな』

『抱かれた時に、わかるよ。何よりそうやって優しく触られて、体がとても悦ぶのなら惚

れている証拠だ』

 そうだね、ダランが触ってくれるたびに体がこんなにも嬉しいって言うんだもの。

『その時が来たら、出来るだけ、息を抜いて、リラックスしな。なぁに、裸になって自ら

脚を開く事は恥ずかしいと教えられてきたけど、それは自分の大事な人にだけにしか脚を

開かないように大人の女が呪文をかけているだけさ。だから恥ずかしがらずに脚を広げる

といい。招かれたと知った男は喜ぶし、あの男を受け入れるならその方がいいからね』

 あたしは、今日、初めて自分以外の人と繋がるんだ。

 それはとてもドキドキだ。

 怖いけど、どこか冒険に飛び出した1歩を踏みしめるような、そんな気分になるんだよ。

 

 ダランはいきなり口をもごもごさせてから、手に唾を吐き出した。

「怖いか、なんて話していると、乾いた気がするからな。これ以上舐めると自分で動きた

くなるからこれで勘弁してくれ」

 大きな手があたしの繋がる所に忍び込んだ。

 そうやって擬似的に全体的に濡らした後で、本格的に濡れるようにもう1度指で濡れる

ように持って行かれる。昨日の夜、それがどれだけ気持ちがいいのか、教えられた。

 話をしてくれたお姉さん達はちょっとでもこうやって鍵を迎え入れる準備をしてくれる

所に、大事にされているなって感じるらしい。あたしも嬉しく思えた。

 その気持ちはあたしを熱くさせる。大丈夫、きっと大丈夫。

 あたしは息を吸い、そのあたしをずっと閉じ込めていた檻の鍵を開ける鍵穴に、その鍵

を迎え入れる為に“鍵”に乗る。

『あんたが本格的に“女”になったと知れば、あいつらもきっとあきらめるさ。体まで繋

がられたら手の出しようがないからね。…本当に鍵と鍵穴とは上手く表現したものだね。

それでいくと、あいつの体はターナを今まで閉じ込めていた檻からターナを救い出す鍵だ』

 …そうだといいなぁ。あたしは、もっと自由になりたい。

 いつもぼんやりと眺めていた空へとうんと高く羽ばたく、そんな鳥のように…あたしは、

なりたいんだ。

「…ねぇ、いくよ」

「いつでもどうぞ。降りるだけでいいからな」

 

 すぅっ、はぁっ。

 

 体をピンと伸ばして、天井に向かって息を吐く。自分の中に、自分のものではないもの

が入り始めたのがわかる。

(え、嘘、こんなにも苦しいの?やだ、痛い!)

「あれだけ濡れていても、やっぱり苦しいか。…今日はここまででやめよう。昨日みたい

にしてやるから、抜きな」

 あたしはその声を拒否するように頭を横に振る。

 ここで、ダランと繋いだ手を離したら、2度とこうやって手を繋げないような気さえも

して、苦しい事よりもそっちの方が嫌だと思った。

 ダランが横たわらせていたその大きな体を起き上がらせて、あたしの体を抜こうと伸び

てくる手があたしを捕まえた。

 その手が本格的にあたしを抜き取る前に、あたしは大きく息を吸って自ら体を降ろして、

自分の体にその鍵を突き刺す。

 

 すぅっ、はぁっ。

 

 それが進むにつれて、想像以上の息苦しさがあたしを襲った。息が詰まるだなんてもん

じゃない。体が裂かれる感覚に、息が出来ないのだ。

 さっきダランに貰った、彼の指がもたらしたキモチヨサなんて微塵もない。

 同じ所なのに、何でこんなに辛いのだろう。

 濡れたらどうとかいう話じゃない気がする。根本的に何かが違う。

 あたしは苦しくて歯を食いしばる。涙も出てくる。

 でも離れたくないんだ。突き放されたくもないんだ。初めて砂の大地に連れて行ってく

れた時の突然のお別れのように、ポツンと置いていかれるのだけはごめんだ。

 手だけではない所が繋がっているっていう事実が、あたしを先に進める勇気を与えてく

れる。

 この苦しみだって、“ここを乗り切れば、あたしの愛おしい男があたしの腕の中に収まる。

あたしがその愛おしい腕の中に収まる。”その誘惑には勝てない。

「…すげ、苦しいだろうなぁ。ゆっくりの方がいいのかなと思ってはいたけど、苦しいの

が長い方が辛い、か」

 ダランが息を呑んでいる。彼も詰まらせていた息を吐いた。

「…ターナ、ごめん。我慢して。1番辛いのはこれだけだろうから」

 え、と思う間もなくあたしはベッドに繋がりかけたまま押し倒された。

「悲鳴、あげときな。息を吐くだけで違うだろうからな。…いくぞ」

 

 あたしが出す事が出来るのは、あたしを貫く痛みに対して抵抗するための、ありったけ

の声で叫ぶ叫び声だけだ。

 あの砂の大地で聞いた、ダランが抱いていた女のような甘い声なんて出せやしない。

 

 こんな叫び声を聞いて、ダランはあたしとの時間に酔いしれてくれるとは到底思えない

ほどの声をあたしは上げていた。

 …ああ。

「ああ、畜生、やっぱりこうなるよなぁ…。でももうここまで来たらやめられねぇんだ、

ごめん」

 繋がりたいと言った時に、手を繋いでくれていたら我慢できるよ…って、あたし、言っ

たんだ。

 繋いでいた手が簡単に離れないように、指を絡めなおしてくれた事、どれだけ苦しくて

もそれだけはわかるよ、お姉さん。忘れる事なんてできないよ。

 そうやってしてくれた気持ち、あたし、嬉しいよ。手を繋いでくれたらその瞬間を乗り

越えられるよっていってくれた、その意味がわかったよ。

 

『どうしても苦しいと思う時に、あたし達との話を思い出しな。痛いと思うだけならきっ

と辛いだけだからね。それか、初めて出会った日とか、さ。そうやって、他の事を考える

といい。いつもそれをやったら相手にとっちゃ失礼になるが、痛みだけを感じたまま乗り

切るよりかはずっといい。きっと痛いだけなら、こんな思いは2度とごめんだと体が拒否

してしまうだろうからね。心配するな、あたし達もそうやって乗り切ってきたんだよ。あ

たしはヒュームの男だったけどねぇ』

 

 あたしは素直にお姉さんの言葉に従う。

『そうねぇ。じゃああいつと同じく冒険者の先輩として、あたしの話をしてあげようか。

あたしのハジメテノヒトは黒髪のエルヴァーンの男だったよ。本格的な冒険の旅に出る前

にねぇ…、お願いしたんだ。あたしこのままだときっと、男に対して甘い考えを持ったま

までいてしまうって。だからね、乱暴にしてくれって言ったんだ』

『形は乱暴だったよ。今思っても、尻尾の根元から毛が逆立つかと思うくらいにね。まあ

でも、当然だね、あたしがそれを望んだし、これから行く旅路にそれはいらないって思っ

ていたからね。あの人とは離れて眠る、それ位の事を体に刻み込みたかったんだ』

『でもね、それをいざ入れる時に、その人は手を優しく握ってくれたんだよ。それだけで

乱暴をされて逆立っていた毛も落ち着くくらい優しく手を握って、唇を重ねてくれたんだ。

“すまんな、やっぱり最後まで嫌な男は無理だわ。このままいくとお前が普通の男すらも

受け入れられなくなっちまうわ”って笑われてさ。それから優しく抱いてくれたね。でも

結果的にはそれでよかったんだ。乱暴されたままだったらその人にもついていけなかった

からね。ああやって手を繋いでくれなかったら、冒険の旅からも逃げていたね。…ふふ、

いい男だろう?今でももちろん、仲間思いのいい男さ。男のいい所も悪い所も、あの男か

ら学び取ったさ。その1回だけで後は全く肌は重ねなかったけれどね』

『今?ああ、今も付き合いはあるけどお互い全く違う人と連れ添っているよ。あの人は今、

確かヒューム族の女のような気がするな。続いていたら、の話だけどね。あたしの今の相

手もまたヒューム族の男でねぇ。お前の男のようにきつい事をズバッと言うが、心根は温

かいものを持つ男だよ。でもあの人はいつまでたってもあたしにとっての特別な人だ。そ

れは今も変わりは無い』

『お前が拾った男は、ゴールドロブスターを好きになったかもしれんが、今思うと当時肉

が食べられないほど弱っていたんだ。そこまで弱った男を癒すのもまた、女だ。…あんな

にも近くにいたのにそれに気がつけなかったなんて、情けないね。あたしだけじゃない、

残る2人もそう言っていたよ』

『ううん、それは仕方ないよ、お姉さん。ダランはそういう所、上手いもの。疲れても疲

れた顔をなかなか見せないの。たぶんね、あたしが笑ったら同じように笑ってくれるから、

それと同じように、疲れた顔ばかりを見せていたら相手も疲れちゃうって思っているから

だよ。気持ちはいい方にも悪い方にも、移っちゃうの。…それにね、あたしの前ではよく

食べるなぁってくらい、とてもいっぱい食べていたんだ。お肉も食べていたよ。ダルメル

肉の焼き方を教えてもらったんだ。とても美味しくて、2人で美味しいねぇって言って、

食料として何頭も狩ったの。あたしまだ、ダランみたいに上手く焼けないのよ』

 

 あたしは流れる涙を指ですくってくれているダランを見上げた。

 最初に比べればとても楽になってきたからだ。体が突かれる事に対して慣れてきたのか

もしれない。それに、その苦しい絶頂の時間を違うことを考えてやり過ごした事が良かっ

たのだろう。

 やっぱり、あの人達が言うように、辛い事だけしか受け取る事ができなかったら、早く

終わって欲しいとばかり考えていたかもしれない。本当に、それ位辛かった…から。

 あの人達が疲れていたのだと言っていたその男が、あたしの体を突き刺して心配そうな

顔であたしの様子を伺っている。

 最初の悲鳴が無くなったら、ダランの顔も辛そうじゃなくなってきたようで、ちょっと

まだ緊張が残る中にも安心をする顔をしていた。

 あたしがダランの顔に手を伸ばすと、ダランが嬉しそうに笑ってみせた。徐々に顔が緩

んでいくのがわかる。それを見て、あたしも不思議と幸せになる。

「…気持ちよさそうな、顔、だね。あは、昨日の、顔だ」

 ダランはあたしの声に小さくハハと笑った。

「そうだな、昨日よりもすげぇ、気持ちいいよ。だから、途中で、なかなかやめられねぇ

の。余裕が出てきたんだな、安心した。もうちょっと、俺の好きにさせてくれ、な」

 ダランが安心をしたらしくその顔がもっと緩み、あたしを突き刺すその速さも速くなる。

 じわじわと浮かび上がる汗の重みでチョコボのように立ち上がっている髪も降りてくる。

 不思議なもので、これから降ろした髪で外に出ないでってわがままを言いそうになるく

らい、それが特別に感じてしまう。

「俺の名前、呼んで、ターナ」

 オトコノヒトでもそうやって喘ぐような甘い声、出すんだね。あたしだけかと思ってい

たんだ。またダランに教えてもらっちゃった。

 あたしがダランと呼ぶと、ダランもあたしをターナと呼んでくれた。あたしは何度も呼

んで欲しかったから、ダランをいっぱい呼んだ。

 本当に、顔つきが変わるね。あたしの他に何人がその特別な顔を知っているの?って聞

きたくなっちゃう。

 受けていて確かに苦しいけど、そうやって歯を食いしばって時々甘い声も出す姿を見る

と、結構それも許せちゃうんだ。

 ―――…ふふ、この時のダランって、物凄く無防備だよ。

 無防備で、可愛いよ。オトコノヒトじゃなくて、まるでオトコノコみたい。

「もう、駄目」

 顔をしかめて、ダランは一瞬震えた。ブワッと鳥肌が立って、しばらく動きを止める。

 昨日ダランが自分の手で鍵をこすってあたしのお腹の上にいっぱい出したものを、今日

はそのままお腹の中にしまいこんだのだとあたしは理解する。

 ダランが短く息を切らせて、ずっと繋いでいた手を解いた。

 ダランはアーッと声を上げながら力尽きた様子であたしから離れて、バタンとベッドに

倒れこむ。

 あたしの体もすぐに動けないので、顔だけダランのほうを向けた。

「ターナ」

 嬉しそうにダランが笑ってくれたので、あたしも嬉しくなってダランに笑いかける。

 するとダランはよっぽど疲れたのか、それ以上何も言わず、何もせず、昨日のように眠

りの波に1人でとっととさらわれていく。

「…なによ、また1人取り残されちゃった」

 あたしは思わずポツリとつぶやいてしまう。

 つぶやくのは仕方が無いじゃない。いつだって取り残されちゃうのはあたしなんだしさ。

 こんな時まで取り残さなくてもいいじゃない。

 こういう、終わった後のゆったりとした時間に話す話が重要なんだよって聞いていたの

にさ。それが無いなんてなんだかつまらないなぁ。

 あたしは唇を尖らせてダランディーガの頬をつつく。が、あまりにも心地良さそうに眠

っているものだから、またしても許せてしまえた。なんだか、ずるいよ。

 

『もう何も考えられなぁい!!とか、尻尾の先まで痺れちゃうぅ!!とか、さぁ。どうせ

するならそこまで欲しいねぇ。さっきの場所じゃ言えなかったが、そこまでいかせてくれ

そうな男を見つけちまったよ。あの旨そうな体ったら、ないね!期待してしまうよ』

『お、それはいいね。なかなか無いからねぇ。ちょっとでも考え事をしちゃうと無理だね』

『考えられなくするのも男の腕、って、ねぇ。隙を与えないほど女を酔わせる男がいいね』

 あたしはダランの寝顔を見ながら、クスクスと笑いながら街の警護に就く大人のミスラ

達が話す言葉を思い出した。

 ダランがウィンダス連邦へと来てからというもの、彼女達は休み時間にいつも以上にあ

たしだけを手元に呼んでくれるようになった。大人のミスラ達に呼ばれるのなら、あの子

達もいくらなんでも文句は言えない。

『それって気持ちがいいことなの?』

『そうだね、イイコトだ。ターナもいつか体験するよ。楽園に連れていかれた気分になれ

るよ』

『ああ、ああ、確かに楽園だ。天国だね。何だっけ、エルヴァーン族が持つ大聖堂では皆

が“皆様にも天国の扉が開かれますよう”だっけ?言うんだよなぁ。水の区の宿にも1人

修行僧がいたじゃないか』

 そう言いながら大人のミスラの1人が両手を挙げて独特のポーズを取りながら言うと、

もう1人のミスラが大声を上げて笑った。

『楽園だよ、楽園!こういう意味にするとなんて卑猥に聞こえるんだろうねぇ!大勢で快

楽の扉を開けってか』

 2人でケラケラとひとしきり笑った後、2人してあたしの肩をバシバシ叩いた。

『さあ、あの子達に細かい用事を言いつけてあげるから、たった10分でもいいからダラ

ンディーガに会っておいで。さっき1人で石の区でのんびりと居眠りをしていたよ。あれ

はきっと釣りをしながら眠ったね』

『どうしてわかるの』

『新しい釣竿が1本、すぐ下の池に落ちて浮いていたからね』

 あたしはそれを聞いてついつい笑ってしまう。ミスラ達は優しく笑ってくれた。

『あれはそのうち居眠りをしたまま池にドボン、だ。たまに冒険者がそうやって落ちるの

を、ターナも知っているだろう。あたし達からのお遣いは、そういった人を1人でも出さ

ないように起こす事、だ。今日の犠牲者は冒険者ダランディーガ、な。さあ、お行き』

 あの日、そう言われて走っていったあたしの前で、柵が無い石の区の池の桟橋に直接腰

掛けながら、前かがみに居眠りをしていたダランがバランスを崩して池に落ちたのだ。

 物凄い水しぶきと物が落ちる音が辺りに響き渡り、何事かと皆が駆け寄ってきたが、頭

から落ちた本人が1番驚いていた。

 その後は溺れる事もなくすぐにすいすいと泳いでいったけれどね。

 あたしはダランの湿って柔らかくなった髪をつまんであの時の事を思い出してフフフと

笑ってしまう。

「本当に疲れきっていたんだねぇ…。おやすみ」

 あたしはダランの隣でゆっくりと目を閉じる。

(お姉さん達が言うような“快感”はないけど、あたしにはここが楽園だよ)

 この人の隣にいれば、大空を飛ぶ鳥のようにこの世界を駆け巡ることが出来る。

 四六時中一緒に居るという事は出来ないけれど、こうやって肌を重ねる時間を沢山持て

ば、どれだけ遠くにいても、その感覚を思い出して隣に居るような気分に浸れるだろう。

 あたしにもきちんと“楽園の扉”が開かれた気がして、とても嬉しくなる。

 ダランの気持ちよく眠るその寝息を聞きながら、あたしも眠りについた。






楽園にたどり着けた“喜び”と“悦び”。





















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