白い満月（ターナから見た風景） ／ 満月の先の楽園
あたしは、空を見上げた。
空には白い満月が夜空に穴をぽっかりと開けるように浮かんでいて、まるでそこから何
かが違う世界から落ちてきそうな気がする位、その白い満月は雲で曇らされる事なく白く
輝いていた。あたしの銀色の短い髪も、その白い満月の光を受けて青白く輝いている。
その満月がじわじわとぼやけていく。
「…っ、ふ」
不意に襲うその自分の嗚咽に、あたしは悔しくてどうしようもなかった。
どうして泣いているのかなぁ。
どうして泣けるのかなぁ。
あたしから離れた所で睦み、交わる、あたしが勝手に相棒だと思っていた奴とあたしと
同じ種族の女の声が聞こえそうで、あたしはそれを振り払うように真夜中の平原を走った。
彼女は、あたしよりも体は大きいけれど、あたしと年齢が２年しか変わらない。
彼女はあたしよりも年下で、だけどあたしよりもうんとはやくにこういった冒険の旅に
出て行ったヒトだ。だから、どれだけあたしの方が早く生まれたとしても、あの子の方が
先輩冒険者だ。
『…ああ、誰かと思えば“ボクちゃん”じゃない。今頃何をしにのこのこと外に出てきた
の。あの子達の子守はどうしたの。あの子達の中でいい筋の子が出てきたから、引き剥が
されたのかな』
彼女はあたしを馬鹿にした笑いを浮かべながら、あたしを見た。
『あたしずっと、ボクちゃんは女同士がいいんだとばかり思っていたわ。実際そんな子ば
かりに囲まれてきたじゃない。…ダランディーガはそれを知っているの？あんたが本当は
男と居るよりも女同士で居ることを好むミスラだって事』
あたしは何も言えずに唾を飲み込んだ。彼女はあたしよりも年下なのに、何故かあたし
よりも５年くらい年上のお姉さんのように女らしく笑う。
『まあ、相変わらずずっと自分の事をボクって言っているようじゃ、その付き合い方も何
も聞かなくてもわかりそうなものだね。いかにも女として相手にされていなさそうだよね』
あたしは、うつむいて歯を食いしばる。
『ボク、は、冒険者だから…いいんだよ、そんなものなんて無くてもさ』
彼女はそれを聞いて、大声で笑った。笑って、笑って、腹を抱えて笑って、涙を流すま
で笑った。
『本当に手を出された事なんて無いんだ！ああ、おかしい！本格的に女同士がお似合いだ
よ、ボクちゃん！』
笑いすぎて涙を浮かべた目であたしを見た後、彼女はあたしの装甲を見て鼻で笑う。
『言っておくけど、あたしはそんなのごめんだからね。いくら女が好きだからってあたし
に言い寄るのだけはやめてちょうだい。…それが言いたかったの。じゃあね』
…そんな彼女が、どうしてあいつに触っているの。
…ねえ、ダランディーガ、どうしてあいつにそんなにも優しく触っているの。
どうして、どうして、あたしにはそうやって触ってくれないのに、そんなにあたしの知
らない顔をしてあたしと同じ種族の女を腕の中に入れているの。
『女の体は久しぶりでしょう、ダランディーガ。もっと好きにしていいよ。あたし、エル
ヴァーンの体でも平気なの。だから何も心配する事なんてないのよ』
『…なるほどな。じゃあ楽しませてもらうか』
奴はそう言った後長い間唇を重ねて舌を絡め、その後彼女の首筋にその舌を這わす。そ
うやってする時に吐く息さえも色が違って、もう訳がわからない。
首筋を許す彼女が呆然と立っているあたしを遠くに見て、女の顔であたしに笑いかけた。
『この時点で凄く気持ちいいよ、ダランディーガ。とても楽しみだわ』
『お前から来たんだから黙って受けろ、このメス猫。…久しぶりだから壊すぞ』
『あたしは乱暴なやり方の方が好きなのよ。それなら遠慮なくしてちょうだい』
『ハハ、そりゃ好都合だな。俺も乱暴に抱くのが大好きよ。覚悟しなぁ』
…あたしは、走る。途中で誰かがあたしを呼んだ気がしたけれど、それでも夢中でここ
から逃げるように駆け抜けた。
走って、走って、息が切れて苦しくなって、胸が焼けるように痛くなって、わき腹もこ
れ以上は走るのを止めたほうがいいよと悲鳴を上げても、走った。
流石に限界が来て走るのをやめると、遠くに月明かりに照らされた、夜でも走るチョコ
ボに乗る人達の姿が見える。
夜に目が弱くなるモンスター達をかいくぐっていくのだろう。あたし達もチョコボには
乗っていないけれど、そうやってここに来た。
あたしは何もない砂の上でへたり込むようにしゃがみこむ。
そして沸きあがってくる声を何とか抑えて、乾いた砂地を自分の涙で湿らせた。
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